2015年3月5日木曜日

3月歌舞伎公演 「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)-髪結新三-」 「三人形(みつにんぎょう)」

2015-03-05 @国立劇場


中村橋之助 ⇒髪結新三(しんざ)
中村錦之助 ⇒弥太五郎源七/若衆
市川門之助 ⇒手代忠七(ちゅうしち)
中村松江  ⇒加賀屋藤兵衛
中村児太郎 ⇒白子屋(しろこや)お熊/傾城
中村国生  ⇒下剃勝奴/奴
坂東秀調  ⇒車力善八
市村萬次郎 ⇒家主女房お角(おかく)
市村團蔵  ⇒家主長兵衛 
市川荒五郎   ⇒按摩徳市
市川門松  ⇒合長屋権兵衛
中村芝喜松   ⇒白子屋後家お常
中村芝のぶ   ⇒白子屋下女お菊
中村橋吾      ⇒肴売新吉
坂東玉雪      ⇒大工勘六・夜そば売仁八

  ほか(/は「三つ人形」の役)


河竹黙阿弥=作
●梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)
三幕六場
            - 髪結新三 - 
            国立劇場美術係=美術      

序 幕 白子屋見世先の場
    永代橋川端の場

二幕目 冨吉町新三内の場
    家主長兵衛内の場
    元の新三内の場

大 詰 深川閻魔堂橋の場   


●三人形(みつにんぎょう) 常磐津連中  
国立劇場美術係=美術 


髪結新三(かみゆいしんざ)の名前はこれまでも耳にし、目にしてきたが、どういう話か全く知らなかった。

新三は出前床屋だ。
江戸時代にはそういう職業があったらしい。主に大店の帳場に出入りして店の番頭だの丁稚だのの髪を結うのを生業にしていたのだが、そういう仕事柄から、得意先ではあれやこれやの面白おかしい話を耳にすることがあり、この芝居で描かれる白子屋お熊の事件も、新三が出入りの材木問屋白子屋で娘の嫌がる婿養子の件を小耳に挟んだことから大事に発展してゆく。

元々は実話で、元禄から亨保に時代が変わった頃の江戸下町で起こった。
人形町の少し北側に昔は新材木町という町があった(今では堀留町になっている。)。その名のとおり材木問屋が軒を並べていたようだ。その中に、白子屋という老舗があったが、台所は火の車。
そこで、娘お熊に持参金付きの婿養子を取った。

ところが、お熊には末を約束していた手代の忠七(ちゅうしち)がいたため、結婚後も忠七と密通を重ね、親も黙認していたが、いよいよ欺瞞の結婚生活に我慢できず、亭主毒殺を謀って失敗。次に下女にカミソリで切りつけさせるもこれも失敗し、ついに事件は表沙汰に。

これを裁いたのが大岡忠相(享保の改革によって南町奉行に取り立てられた。大岡裁きの話のほぼ全てはほかの役人が担当したか、あるいはつくり話だそうで、唯一本当に忠相が担当したといわれているのがこの白子屋お熊の事件だそうな。)。
関係者は厳しく罰せられた。

主犯であるお熊は町中引廻しの上獄門となったが、その際お熊は、白無垢の襦袢と中着の上に当時非常に高価であった黄八丈の小袖を重ね、水晶の数珠を首に掛けた華やかな姿で野次馬たちの目を奪ったそうだ。


この実話を基にしているが、この芝居ではお熊の犯罪は全く描かれず、おそらく創作上の人物であろう髪結新三が、婿養子に難色を示すお熊と手代の忠七との仲を知って、一儲けしようという話になっている。

興味深いのは、主要な登場人物は悪党ばかり、という点だ。

忠七を騙し、お熊をかどわかしてこれを材料に白子屋をゆすろうとする新三はもちろん悪党。
その近辺の顔役で侠客を気取っている源七はお熊を助け出そうとしたが髪結風情にコケにされて面目をなくす。が元は悪党。
新三と巧みに交渉して身代金の大半を着服する家主の長兵衛もやはり悪党。

新三をめぐって2人の悪党がお熊を解放させようとするが、親分肌の源七が失敗し、年寄りの長兵衛がしてやったりなのは、新三には長兵衛の損得勘定の説得に屈したというより、同じワルの気配を感ずるものがあったからだろうと思う。

この2人は、悪党だがいずれも愛嬌があって憎めない。
江戸の町衆を束ねる価値観を彼らの生き様にみるような気がした。

粋、いなせ、きっぷ、といった(説明の難しい)人の生きざまは、ここで描かれるような町衆の中で育まれてきたんだろうなあ、と思った次第。

新三の悪巧みは長兵衛によって期待外れに終わってしまうが、思わぬ儲けを手にした長兵衛も以外な顛末が待ち受けていて、ここは大笑い。なるほど、「髪結新三」って歌舞伎だけでなく落語にもなっているんだ。

江戸町民の暮らしぶりを描く話(「世話物」)だけに、派手さはなく、見得を切る場面も殆ど無いので、大向うも出番が少ないのは寂しいけど、人間ドラマとしては良くできている。


橋之助は初役だそうだが、新三の憎めない小悪党ぶりが板についてとても良かった。

また、家主夫婦を萬次郎と團蔵が実に軽妙に演じて楽しかった。

源七を演じた錦之助も、これは非常に難しい役だと思うけど自然体でよかったと思う。

大道具などの美術も、江戸下町の物語なので、リアルで地味だが、唯一、初鰹の作り物には驚いた。このユーモアが歌舞伎の世界にもシラーっと顔を出すのがおかしい。


「三人形」は常磐津による舞踊劇だ。
長唄(とプログラムには書いてあったが、常磐津じゃないのだろうか?)の詞章(ししょう⇒語り物の文章)は耳では残念ながらほとんど聞き取れない。刷り物を読めば何が書いてあるかは分かるけど意味はいまいち。
ああ、昔の人はこれで理解できたのだろうなと思うと、自国の古典が理解できないのが情けない。

が、人形に見立てたきれいなお兄さんお姉さんが、桜満開の吉原を模した書割を背景に踊る姿は、いと美し。


♪2015-20/♪国立劇場-02